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 本コレクションはドイツのイスラーム研究者、ハンス・ダイバー(Hans Daiber)氏が長年にわたって収集したアラビア語を中心にしたイスラーム関係の写本の集成である。東洋文化研究所が昭和61-62年度、および平成6年度(文部省大型コレクションの予算措置による)の2期にわたって購入したものである。

 イスラームの文化はクルアーンという神から与えられた一冊の書物に由来するともいうことが出来る。その一冊の書物について膨大な注釈書が生み出され、さらにその言葉を正しく理解するためにアラビア語の語彙や文法についての著作が著される。またその神の言葉を受けた預言者ムハンマドについて、彼の語った言葉や行動の記録が大部のハディース(伝承)集やその注釈となって現れ、敬愛する預言者や初代の信者たちについての探究は歴史書を産み、やがて信仰を共有する共同体の歩みを細かに記録して行く。このなかで神の嘉とする生き方を体系的に整理する法学は生活上のあらゆる問題について細大漏らさず詳細な議論をし、膨大な文献を生み出す。他の宗教や逸脱した教説を論駁しクルアーンに基づく正しい教義を提出するためにさまざまな立場から神学の文献も出現する。神の預言者への示現の体験を追体験しようという者たちは神秘家としてその体験を記述、整理しようと文献を生み出す。地球上に存在しているものすべてについての哲学的、自然学的な探究も、神の創造したものの探究としてイスラームのなかに位置を得、沢山の著述を生む。一冊の書物に触発され、イスラームのなかで発展した諸学問は時間の経過とともに無数の書物を産み出してきた。

 この書物の山を踏み分けて行くのがイスラーム研究の王道である。近年ムスリムの手による出版活動は盛んで古い時代の写本や石版刷に替わって活字印刷さらにデジタル印刷で出版が行なわれている。古典的著作の翻刻も盛んで写本カタログでしか見られなかった書物を読みやすい形で手にすることもできるようになった。しかし、翻刻されずに、ムスリムたちの住む各地の図書館に残されている重要な文献は多い。また翻刻されていても、印刷校正が十分でないものもある。写本は活字のようにはなかなか読めないが、一冊の写本を何世代にもわたって嘗めるように読んでいる場合も多く、誤写などしばしば訂正されており、活字本にはない有益な情報を与えてくれる。写本の効用は活字本の代替以上のものがあるのは確かである。テキストの内容理解という点に関しては、テキストが精確に解釈され、再現されていれば、活字本の方がすぐれていようが、それでは筆、墨、紙、字体、装訂などに現われる当時の学者たちの息遣いは伝わらないであろう。イスラームの学問の形成の場にさらに一層近づくためにも写本の効用はあるのである。

 本コレクションはけっして膨大なものでもなく、芸術的価値の高いものがあるわけでもないが、イスラームの多様な学問分野の文献を広く覆っており、全体として見るならば伝統的なイスラームの学問の鳥瞰図を描き出している。このたび、準備が整い電子図書館の一翼として公開する部分は、第2期(平成6年度)に購入したもの全点であり、大小さまざまな文献500点近くを含む153冊の写本(石版印刷本1点を含む)である。具体的には、クルアーン諸学(注釈、朗唱法を含む)、預言者ムハンマドの伝承(ハディース)、法学(基礎論および実定法、またシーア派法もふくむ)、倫理道徳論、教訓的著作、神学(教義・終末論をふくむ)、神秘主義(スーフィズム)、哲学(形而上学・自然学・論理学をふくむ)、弁論術、文法学、辞書学、韻律学、修辞学、詩、物語、地理学、伝記・歴史、医術、代数・幾何、天文学・占星術、夢解き、錬金術などさまざまである。個々の写本はムスリム世界の各地から集められたものであるが、その大部分はトルコ、シリアで書写されたもので、そのほかイエメン、モロッコ、イラン、アゼルバイジャン、アフガニスタンで筆録されたと考えられるものがある。書写年代については必ずしも全てについて分かるわけではないが、古くは西暦12世紀の末から、新しいもので20世紀初頭に写されたものまでを含み、18世紀に成立したものが最も多い。

 収集・整理にあたったダイバー氏自身が本コレクションについてカタログを用意しており、本電子図書館でも写本閲覧の便宜のためそのカタログをデジタル化して、参照できるようにした。全体の内容についてはこのカタログのイントロダクションでダイバー氏が明快に記述しているので参照されたい。本研究所では第2期分の公開に引き続いて、第1期分の写本の公開の準備も進めており、近い将来この部分も追加公開する予定である。

 本コレクションはムスリムの生き方を直接、間接に明らかにする多方面にわたる資料がふくまれており、このような形で公開することによってより広い範囲の研究者が資料に接近可能となり、イスラームの文化の豊かさ、多様性の理解を進め、これからのイスラーム研究に貢献してほしいと考える。  

(ダイバー・コレクションDB作成総括 東洋文化研究所 鎌田繁 )